第 二 章(2)迅速な工事で学内の空気が一新

大西の行動は素早かった。校舎のすべての教室と廊下の床を新素材で舗装し、壁のモルタルを全面的に改修した。外壁は補修の上再塗装、特に、トイレが水洗になったのはうれしかった。荒れ果てた校舎が見違えるように明るくなっていった。
目に見える施設面での改善の効果は大きかった。生徒・教職員は、長い間経営者が施設への投資を拒み続けてきた頃との違いに驚くばかりだった。ロッカーや机、イス、教室の壁の破損が修復され、生徒も急速にきれいな状態を保つ楽しさを理解し始めた。荒れた校舎でのお説教は無効だが、明るく清潔になった校舎を綺麗に保てるのは、お説教がなくても生徒が自主的に協力するからだ。

大西に全権を託された清掃担当教員は、各教室に業務用モップを始めとする清掃用具一式とガラス・クリーナーとスプレーを配布、大量のワックスを仕入れてモデル教室をつくり、全校を磨きあげるのを当面の目標として掲げた。
70才を越えている伊藤千一用務員は、仕事は鷺野谷としのおばさんに任せ、もっぱら腰に手をあてて構内をパトロールしている。生徒が騒いで授業にならない教室を見つけては担当の教員を酒井田主事に密告するのが何より好きで、影の帝王と呼ばれていた。その伊藤に呼び出された清掃担当教員は、地下室に積まれているワックスの山に衝撃を受けた。ジョンソン・ワックスの営業担当者に必要な分量を提示され、そのまま発注したのである。
激怒している帝王の前で必死に善後策を考えた彼は、学校中をピカピカにするまで月二回の大掃除という前代未聞の奇策を実施した。全教室にバケツにいっぱいのワックスが配給され、モップで濡れた床を拭き取り磨くための時間と労力はたいへんなものだった。全校の床がピカピカになったのは確かだが、多数の教員の不評を買い、行き過ぎた大掃除はまもなく中止になる。
見違えるように綺麗になった校内で生徒の授業態度も変わり、器物損壊に励んでいた生徒もおとなしくなる。環境が人に与える効果は、予想を超えていた。

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