第 五 章(6) アレグザンダーの誤解

大成の件についてはアレグザンダーに話している。
しかし、何を誤解したのかは分からないが、彼の思い込みによると、大成ほかの大手ゼネコンがconsortiumを組織しており、直営方式をさせまいと複数の氏名不詳の人間を使って、私を脅迫したことになっている。しかも、名前も言わないで私を新宿に再び呼び出し、直営方式をしないようにと、現金をちらつかせて私を脅迫したというのである。これには、驚いた。

彼は、「当たり前の道」(Ordinary Way)でなく、その後“Battle”というタイトルで「盈進プロジェクト」についての本を出したが、出版前1年以上の間、頻繁にメールで、このような思い込みは全くのフィクションだと説明したが、聞き入れず、思い込みによるこのフィクショオンをそのまま本に載せたのである。間で、私の言う事実と、自分の理解の両方を掲載すれば公平ではないかと言ってきたが、即座にメールで断った。私が経験していないデタラメなフィクションと真実を同格に扱うことは出来ない、そうするのであれば私の名前は一切その本に出すのを断るとメールで返事し、彼はメールでそれに同意した。いずれもメールは保存してある。

事実は、既に述べたように、インタビューの2週間ほど前に、大成建設の使いだというので、中・高で同期の友人と新宿で会っている。話の内容も私の答えも、重複するのでここでは省略したい。次の朝、大成から連絡が入り、翌日の午後学校で大成の役員と会っているが、大成関係で人に会ったのは、これだけだ。
第一に、私が会ったのは、同期の友人一名と一回会っただけであるが、彼の叙述によれば、名前も言わない人間に呼び出されて、夜、私が新宿ヘノコノコ出かけていったことになっている。誰が考えてもありえない話である。第二に、ゼネコンのconsortium などは一切無い。当時は、普通は中小建設会社が扱う1億円程度の工事にも大手ゼネコンが入り込もうとするくらい相互の競争が激しくて、consortium などと呑気なことをやっている余裕など無く、それどころではなかったというのが実態である。第三に、初めは会合は1回で、その時2000万円の現金を持ってきたことになっていたが、金は銀行口座に振り込むと言う話を私から聞いていて、彼はそれをスタッフの中埜に話している。現金と口座振込は両立しないので、アレグザンダーは話を修正し、現金を登場させるために、会合を1回から2回に増やしている。完全な捏造である。第四に、新宿の同期のクラブは会員制で、届けが認められない限り会員以外の人間は入れない。もちろん部外者の届け出の記録など一切なかった。これだけで、複数の人間が2回にわたって私を脅かし、直営方式をやめさせようとしたなどという話が如何に馬鹿げているかわかると思う。しかも、彼等は、その後もずっと私を脅迫し続けたということになっているが、有りもしないconsortium はもちろん 大成からも一切連絡がなかったからことは前に述べた通りである。

彼は、直営方式を止めようと、大手が結束してこのような行動に出たと、本当に思い込んでいたようだ。
メールで、事実を以って、彼の話はフィクションだとはっきり否定したのだが、一旦思い込んだ彼は、その後、著書で、私が経験してもいないフィクションをそのまま掲載してしまった。
出版社にも正式に抗議し、既刊の分は不問に付すが、以後は再刊しないし、日本語版等外国語版も出さないことを条件に、事実と違うと詳細に説明した文章は公表しないと通告して、この件を終わりにした。 

過去、彼の思い込みによってひどい思いをしたことは度々あった。その都度、事実によって、問題を解決してきたが、彼も、それらのことは忘れていないと思う。       
バークレーで、彼の追加設計料の申し出に対する学園の答えとして、「その修正案(the amendment)には同意できない。」と言った途端に激怒した。異様な形相で、私に次々と罵声を浴びせ、抑制が効かないのに参った。午前2 時になったので、タクシーでホテルに帰り、彼の誤解を文章にして、翌朝それを見せた。追加の修正案そのもの(an amendment)に反対しているのでなく、彼の申し出そのままの数字では(the amendment)同意できない, ということである。不定冠詞と定冠詞の違いであって、それを彼は不定冠詞と誤解したのだ。彼は、この簡単な聞き違いで、早飲み込みしてしまったのである。
このとき、彼に、今回は良いが、同じような間違いを繰り返さないでほしいと言うと、考えた末に“I may risk it.” (また、やるかも知れないな。) と答えたのが印象に残っている。その後も、何回か同じような誤解があったが、始終会っていたので、その都度解決できた。
今回、また、同じような誤解でリスクを犯したのだが、お互い日本とイギリスと離れているので、メールだけでは解決できなかったのだろうと思う。

いずれ個人的なことではあるが、彼の著書の誤解によるフィクションを受け入れることはできない。と言って、彼の「盈進プロジェクト」における貢献,私との深い友情を、彼の誤解で終わらせることも出来ないと考えたのである。あえて、本題と離れたことを、ここで述べた理由と経緯をご理解頂ければ有り難いと思う。
一昨年、長年協力して盈進プロジェクトを完成させた彼は依然として私の親友だとのメールをアレグザンダーに送って、現在に至っている。しかし、彼の著書については,この部分だけは完全なフィクションだということを、ここで重ねて明らかにしておきたい。

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