第 三 章(1)「使用者参加の原理」は伝統的な手法

読み進むと、今までの本とは違う。
次々と思いつきで提起される従来の「実験的な試み」ではなく、一般的な原理、原則を考えているらしい。要望の要約を受け取った後は、施主は一切口出しできず、すべて建築家に任せるというのが従来のやりかただった。それを否定しているらしいのだ。

「これだ。」と思ったのは、「使用者参加の原理」(User Participation)である。施主側も設計作業に参加するというのである。實例を通じて、この原理が具体化されていく様子が述べられていた。施主と棟梁が相談しながらことを進めていくという、ついこの間まで日本で行われていた当たり前の手法である。建築家探しを諦めてから棟梁探しに奔走していたのは、この手法を求めていたからである。建築家自身が、この手法を取ろうとしているのに衝撃を受けた。アレグザンダーも、同じことを考えているらしいのだ。この「盈進プロジェクト」を進めるのにおあつらえ向きではないか。

長年の友人である浦林亮次(当時石元建築設計事務所専務)と雑誌「A & U」の編集長だった中村敏雄の両名に、アレグザンダーの起用について意見を求めた。二人とも最初は驚いていたが、すぐに賛成し、面白い試みでぜひ実現してほしいと積極的に激励してくれた。
安井の服部、小田切には、アレグザンダーの起用を考えていると話した。安井に学園の提案を拒否されてからアレグザンダーを考えるに至った経過を説明すると、二人共,俄然興味を示し始めた。
彼は日本の建築世界でも話題になっていたことがあるし、二人共、その考え方には共感出来ると言う。アレグザンダーに話してみるから日本側スタッフとして協力しないか、安井も設計協力者としての形を整え相当の費用を支払えば、両名の派遣を承諾すると思う、と提案すると、思わぬ可能性に身を乗り出して聞いていたが、ふと現実にかえって暗い顔になった。「うちの会社は保守的で、ちょっとでも変わったことだとやらないと思いますよ。」と言う。悲観的ではあったが、持ち帰って、会社に話して見るということになった。

今度は、営業部長のほかに設計部長が同席していた。
「世界的な建築家のアレグザンダー先生と仕事ができるのは光栄ですが、決定権は誰が持つのですか?」
「当然アレグザンダーです。そうでなければ、彼を起用する意味はありません」
「それは困ります。安井が他の建築家の下で仕事をすることは出来ません。」
「ですから、服部、小田切両名を日本側の協力スタッフとしての派遣してほしいとお願いしているのです。設計:アレグザンダー、協力:安井という形で進めれば良いと思うのです。協力のための費用はお支払いします。若手を育てる意味でも、安井にとってプラスになるでしょう。」
「うちの社員を、うちが仕切れない仕事につかせることは、お断りします。出来るとすれば、アレグザンダー先生に基本計画を立てていただいてその後完成までを手前どもで引き受けるという方法です。先生の描いた絵を、こちらで具体化するのです。」
「既にお話しているように、学園は初めに完成予想図というやり方はお断りしています。彼に絵を画かせるつもりはありません。協力の方法について、設計部長がバークレーでアレグザンダーと話し合ってみてはどうですか?」
「検討してみます。」
結局、協力の方法については任せるので、設計部長は渡米できない、との返事だった。

彼の教え子である中埜博に会い、アレグザンダーについて話を聞く。彼に連絡を頼んで、3月初め、バークレーにアレグザンダーを訪ねた。

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